NYレポート02
アメリカ人女性たちは自分の体をどう見ているか
Case1:デボラ(60代)
米国在住23年、NYを拠点に活動している、フリーランスライターのTOMOです。
これから何回かにわたり、アメリカ人女性たちが自分たちの体や女性器(ヴァジャイナ)をどう考えているのか、彼女たちに聞いた話を紹介していきます。
今回登場するのは、60代のアメリカ人の友人、デボラ(仮名)。20年来の付き合いですが、さすがにここまでプライベートな話をしたことはありませんでした。何でもオープンに話せる相手なので、取材の趣旨を説明すると、「私でよければ」と二つ返事で応じてくれました。
「性」をポジティブに捉える家庭
デボラは、今はイリノイ州に住んでいますが、もとはニュージャージー育ち。イタリア系の化学者の父とフランス系の母を持ち、アッパーミドルクラスの家庭に生まれ育ちました。当時としてはかなりオープンでリベラルだった亡き母親の影響もあり、彼女は性に対して罪の意識などは持つことなく育ったそうです。
「思春期になって、胸が大きくなったり、女性らしい体になることをいやだと思ったり、恥ずかしく思ったりしたことはないわ。自分の体にネガティブな感情を抱くことはなかった。『body shame(体形へのコンプレックス)』もなかったわね」と話す彼女は175センチメートルの長身でスレンダーボディの持ち主。
「10歳ぐらいのとき、『大事な話がある』って母の部屋に呼ばれたの。何だろうと思って行ったら、『女性の股の間には三つの穴があるのよ』って。ずっと二つだと思ってたから驚いた」
電話の向こうで大笑いする彼女。こんな明るい彼女ですが、幼い頃、父親が別の女性と駆け落ちして家を出るという経験をし、常に男性からの愛情を求めて数々の良くない男女関係に身をやつしたこともあったそうです。
更年期と女性器の悩みはセンシティブなトピック
そんなデボラも今や60代。ここ数年、彼女は更年期特有のアトロフィーという膣内の細胞が委縮する症状があり、日によっては夜寝られないほどひどい膣の内壁の痛みに悩まされているそうです。医師が処方したエストロゲンの塗り薬も全く効果はなく、本人は「心理的なものだと思う」と話しています。
「同年代の女性の多くは、あまりオープンに自分の体のプライベートな部分の話はしない」とデボラは言います。
「みんなホットフラッシュの話はするけど、そこで終わり。ヴァジャイナの話までは持ち出さない。でも私は知りたがりやだから、こういう話ができそうな相手を選んで『私、ヴァジャイナにこんな症状があるんだけど、あなたはどう?』って聞くの。私が打ち明けると、『実は私も……』ってなることが多い。『話しかけてくれてありがとう。この話をシェアできてうれしい!』って喜ばれるよ」
一見、自由でオープンに見えるアメリカ人女性ですが、そんな彼女たちでさえ、女性器というプライベートパーツは、話したいけれどなかなか言い出せないセンシティブな話題なのです。
地域やカルチャー、宗教……異なる「性」への意識
続けてデボラは「育った環境によって、性にかかわる話題への反応は全く異なると思う」と話します。
確かに、私がいるニューヨークのような大都市と、中西部や南部といった保守的なエリアとでは、性への考え方や性教育の内容は大きく異なりますし、同じエリアでも、育った地域や学校、文化や宗教的背景、親の社会経済的地位や学歴などによって、性に対する考え方は大きく異なるでしょう。
やがて会話は、最近デボラがデートした男性の話題に。
「いい感じになったんだけど、その日もアトロフィーがひどくてセックスは断ったの。まあ彼もED(勃起障害)だったんだけど!」
電話の向こうから、彼女の笑い声がこだまし、つられて私も大笑いしたのでした。
Writer’s Profile
松本 知(Tomo Matsumoto)
フリーランスライター。1999年に留学のため渡米し、コミュニケーション論を学ぶ。2001年よりニューヨーク在住。著書に『Beyond:A Japanese Woman's Perspective of Japan-U.S. Cross-Cultural Love』(Kindle版電子書籍)がある。