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台湾産婦人科専門医・リン インメイさん
台湾でも盛んな「妊活」 西洋&東洋の医学を用いた妊娠しやすい身体づくり
妊娠を望み、赤ちゃんを迎えるための身体づくりなどをおこなう「妊活」に取り組む夫婦が増えています。理由や背景はさまざま考えられますが、国立社会保障・人口問題研究所が発表した「2021年社会保障・人口問題基本調査」によると、日本では、「不妊を心配したことがある」夫婦が39.2%いるといわれ、これは夫婦全体で約2.6組に1組にあたります。
そして、「実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)」夫婦は22.7%、約4.4組に1組が不妊に対する何らかのアクションを起こした経験があるそうです。
日本において「妊活」といえば、食事や生活習慣の見直し、体を温める「温活」などが主流ですが、果たして海外では不妊をどのように捉え、どんな妊活があるのでしょうか。
近年、妊活を目的に日本から訪れる人が増えているという台湾の妊活事情について、Cardinal Tien Catholic HospitalとSmile Muse Clinicに在籍する台湾産婦人科専門医のリン インメイさんにお話を伺います。
目次
・台湾の「不妊治療」と「妊活」事情
・日々の意識の延長線にある「妊活」
・日常的なケアで「妊活」をサポート
台湾の「不妊治療」と「妊活」事情
——日本では「妊娠を望む健康な男女が避妊をせず性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないこと」を「不妊」とし、日本産科婦人科学会ではこの期間を一般的に1年と定義しています。台湾においてはいかがでしょうか。
台湾での不妊の定義は、35歳以上の女性が結婚後6カ月経過しても妊娠できない場合をいい、35歳以下では1年以上に期間が伸びます。しかし定義に当てはまったとしても、結婚してしばらくは2人の時間を楽しみたいなど、必ずしも妊娠を望んでいないケースもあり、実際に不妊治療を希望する人は10〜15%で、WHOが発表した世界全体の不妊率(2022年時点)の推計である17.5%と近い状況です。
ただ産婦人科に勤務している私の感覚では、近年、不妊治療を受ける人が増えてきているように思います。
※WHOでは、「避妊をしない性交渉を12カ月以上定期的におこなっても妊娠に至らないこと」を不妊症と定義。
——理由としては何が考えられますか。
台湾でも日本と同様にゴールデンクロスといわれる死亡率が出産率を上回る状況、いわゆる少子化が問題になっていて、政府は2021年から体外受精に対して最大で1回あたり10万元(約45万円)、上限6回まで補助金を支給する制度を始めました。この制度をきっかけに不妊治療を始めた人が増えたことは考えられます。
先ほどお伝えした10〜15%という不妊治療を希望する人の値は、不妊を理由に実際に医療機関を受診した人の割合です。台湾の保険制度では何の目的で受診をしたのかがデータとして残り、それを統計・分析等に活用できるため、この数値はデータベースに「不妊」として登録された人の数に基づいています。
ですが、台湾では不妊治療は自費診療となることから、医療機関では「不妊」と登録せず子宮腺筋症などの合併症に対する治療として対応することがほとんどです。それを考慮すると、実際に不妊治療をおこなっている人はもっと多い可能性があります。
——日本では、体外受精などの医療行為を受ける不妊治療と、セルフケアによって妊娠しやすい身体づくりに取り組むことを「妊活」と呼び、情報収集に励む女性も多いです。台湾での「妊活」に対する意識はいかがですか。
台湾でも徐々に妊活への意識が高まっていますが、まずは医療機関を受診して不妊につながる病気がないかを調べ、問題があれば治療するといった流れが一般的です。体を温めたり、漢方を取り入れたり、栄養指導を受けることなどももちろんありますが、どちらかといえばそれほど熱心ではありません。
台湾で特徴的な妊活を挙げるとすると、個人でクリニックを運営する開業医がプロモーション戦略の一環として、無料でAMH検査(卵巣の中に残っている卵子の数を調べるための血液検査)を提供するといったことが普及している点でしょうか。
医師が自ら自分を売り込むためにテレビ出演やSNSで積極的な発信をすることが当たり前で、監修として食品・化粧品メーカーと共にプロダクトを開発し、自分のプロモーションと連動させてセールスをおこなうこともあります。妊活をテーマにした講演や無料検査を活用したプロモーションをきっかけに、不妊治療に興味を持ったという人も少なくないと思います。
日々の意識の延長線にある「妊活」
——プロモーションで無料検査を実施するとはインパクトがありますね。日本では2022年4月に人工授精などの「一般不妊治療」や、体外受精・顕微授精などの「生殖補助医療」にも保険適用が拡大されたのですが、年齢に応じた条件などもあり、まだ不妊治療へのハードルは高いという印象です。
台湾で一番メジャーな不妊治療は、卵子が老化することを考慮して、早い段階で将来の妊娠に備えて卵子を保存する「卵子凍結保存」になります。この場合、採卵し凍結保存する際に約9万元(約40万円)、凍結した卵子の保管料として最低でも毎年1.5万元(約6.7万円)ほどかかるため、台湾においても費用面の負担の大きさは課題といえるでしょう。
※台湾の2022年の平均年収は67.7万元(約305万円)とされています(台湾の人材バンク「104人力銀行」の調査より)
——では一般に広まっている妊活にはどのようなものがありますか。
妊活に限ったことではないのですが、もともと台湾では日頃の体調管理として漢方医のカウンセリングを受け漢方薬を処方してもらったり、生理不順や冷え性の改善などで鍼治療を受けるといったことが習慣になっています。サプリの摂取も同様です。
妊娠に備えてケアを始めるというより、日常から身体をケアすることへの意識が自然に身に付いているのかもしれません。
漢方医は自費診療となるので、不妊治療として受けた場合は1回の治療(年5回程度のカウンセリングと漢方薬処方などを実施)でだいたい7.5万元(約33.7万円)ほどです。
体外受精(IVF)をおこなった場合の費用は約15万元(約67万円)なので、比較すると漢方医のカウンセリングは割高なのですが、台湾では体外受精(IVF)で妊娠する確率があまり高くないため、その点を考慮して自分に合った方法を選択しているようです。
日常的なケアで「妊活」をサポート
——西洋医学と東洋医学をミックスさせた妊活ですね。
そうですね。台湾では漢方医が身近な存在なので、不妊治療においても当然視野に入ってくるのだと思います。医師が漢方医の資格をとり、病院で西洋と東洋の医学を組み合わせた不妊治療をおこなうことは珍しくありません。
——そのような事情を知ってか、より体との親和性の高い妊活を求めて、台湾で妊活に取り組む日本人も増えているといわれていますが、実際の体感としてはいかがですか。
私の周囲の話としては、あまり実感はありません。台湾では「卵子は採取した国から移動させてはならない」と定めた「人工生殖法」があるため、仕事で台湾に長期間駐在していたり、パートナーが台湾人で婚姻届を提出しているなどの背景がなければ、卵子凍結や体外受精など医療行為を伴う妊活は、実際には難しいのではないでしょうか。
——新しい妊活として、妊娠に備えて膣内のバランスを整える目的で膣美容液を利用する方が日本では増えています。
自宅でできるケアのレベルで膣内に成分を届ける商品は、台湾ではまだ見かけません。投与という観点でいうと、子宮内膜の育ちを良くすることを目的に、ホルモンやプロゲステロン(黄体ホルモン)、ヒアルロン酸などを子宮内膜へ直接注射する治療はおこなわれています。
KNOW YOUR ORIGINの「Beauty Charge -Femcare-」に含まれるヒト幹細胞培養液に近いところでは、エクソソーム(細胞から分泌される小さな細胞外小胞子)もこの治療で用いられており、注目されつつある状況です。
これらの幹細胞に由来する成分は細胞(粘膜)に良い影響を与えることがわかっているため、膣内の菌の状態を整え、膣内フローラ(正常細菌叢)やPH値を改善させる効果が期待できると思います。
また、台湾で3人に2人くらいの割合で発症している「膣カンジタ」にも効果があると考えられます。膣カンジタは不妊への直接的な関係はありませんが、膣に炎症が生じていることで精子が子宮内に入りにくくなったり、他の感染症につながる恐れがあるため、早めに対処したいですね。
妊娠を望むときに大事になるのは心身の健康です。できるだけストレスを溜めないようリフレッシュする時間をとったり、日常的なケアで体のベースをつくることを心がけてみましょう。
Profile
林 英梅(Ying-Mei [Cynthia ] Lin)
台湾産婦人科専門医。Cardinal Tien Catholic HospitalとSmile Muse Clinicにて一般婦人科と婦人科形成外科を担当。国際女性器美容整形協会臨床研究員であり、女性器美容整形にも精通する。一児の母としての経験を活かし、女性の悩みに寄り添う。
公式インスタグラム https://www.instagram.com/cynthialin1008/