WellnessTips>>産婦人科専門医・高橋怜奈さん 更年期〜閉経後の体とのポジティブな向き合い方

女性の約65%が40代から更年期症状を感じているといいます。そのうち80%超の方が「生活に支障を感じるほどのストレスを抱えている」というデータも。
すべての人に訪れる生理現象とはいえ、心地よい毎日を送れることが理想ですよね。
今回は、元プロボクサーで産婦人科専門医、山王ウィメンズ&キッズクリニック大森院長高橋怜奈さんに、更年期〜閉経後の女性の体の変化と、その向き合い方についてお伺いします。
更年期の不調は病気ではないからと無理するのではなく、快適な心と体でいるための方法を一緒に考えていきましょう。

【目次】
タイミングも症状も人それぞれの「更年期」
かかりつけの婦人科で予防的な対策も
更年期は第2の人生に向けた準備期間

タイミングも症状も人それぞれの「更年期」

——「プレ更年期」や「更年期」という言葉をよく見かけるようになりました。女性活躍の観点でも更年期に対するケアが社会課題になっています。更年期とは具体的にどのような状態をいうのでしょうか。

定義としては閉経前後の5年間を更年期といいます。医学的に閉経は1年間生理がこないことを基準とするので、更年期のタイミングも人により異なります。そのため、実は閉経して初めて何歳から何歳が更年期だったとわかるんですね。
更年期症状が起こるメカニズムは、35歳以降になると卵巣の機能が下がり、女性ホルモンの分泌が低下することにあります。それにより血流が悪くなって、手足の冷えや、顔から上が熱くなるホットフラッシュ、肩こり・首こりによる頭痛といった、一般的によく知られる更年期症状が現れるのです。デリケートゾーンでいうと、膣の乾燥によるムズムズ感やかゆみ、性交痛などがあります。

——個人差はあると思いますが、そのほかにどのような更年期症状がありますか。

一番多いのは先ほどのホットフラッシュですが、関節痛や関節のこわばりなどを感じる方も多いです。加えて、イライラしやすくなったり、反対に気分が落ち込みやすくなったり、メンタル面の変動が激しくなることも主な症状になります。
こうした症状は、外的な要因、例えば親の介護や子育ての悩みなどといった問題から生じるストレスによっても変わりますし、症状の強さも異なってきます。

かかりつけの婦人科で予防的な対策も

——更年期症状のような不調が現れてつらくても、どう対処すればいいかわからず、また誰かに相談することもできずに悩んでいる方もいます。

更年期症状と似た症状が現れる病気もあるため、不調を感じたら我慢せず、病院で診察を受けることをお願いしたいです。倦怠感や冷えなどは、副腎疲労症候群などの甲状腺の機能低下に由来することもあります。
婦人科を受診いただいた場合も、まず内科的な病気がないかを確認するために血液検査をおこないます。そのうえで、生理が1年間なかったら更年期症状かを判断するためにホルモン検査をしたり、半年以上生理がなかったのに急に出血したというときには、子宮体がんなどによる不正出血ではないかを調べたり、必要な検査をしていきます。

——大きな病気ではないことがわかれば、少し安心できますね。更年期症状と診断されたら、どのような治療をおこなうのでしょうか。

なんらかの不調を抱えていて内科的な検査で問題がなく、更年期障害以外の病気が否定され、更年期症状があるようであれば、保険診療でホルモン補充療法(HRT)を受けることができます。
ただ、患者さんの中にも、更年期症状と認められることで気持ちが楽になる方と、認めたくないという方がいますし、病院に通う心理的ハードルが高い方もいるので、漢方やサプリメントなどで様子を見ることもあります。
肩や首がこるのであれば運動したり温めたり、冷えが気になるときはお風呂に入るようにしたり、食生活を見直してみたり、対処療法的なセルフケアを勧めることも。いずれにせよ、それである程度症状がやわらぐのであればいいことだと思うんですね。
不調を抱えてふさぎこむだけでは解決にはつながらないので、早めに受診して病気の可能性がないかを確かめ、自分に合った方法で対処していくことが大事です。

——最近はインターネットやSNSで同じ悩みを持つ方と情報共有するケースも増えています。

お友達同士で悩みを話し合うことは気分転換にもなりますよね。けれども一つ気をつけたいのは、専門家でない場合、間違った情報をやりとりするケースがあるということです。例えば、不正出血があったと相談に来られた患者さんの原因を探ったら、お友達から勧められた海外のサプリメントの中に女性ホルモン製剤が含まれていたということも。
また、人によって適切な対処法は異なるので、不調を感じたらまずは医療機関を頼っていただくことが安全です。

——更年期症状は病気ではないからと、受診をためらう方もいらっしゃいます。

重い症状がないと婦人科に行っても治療が受けられないと考えている方は、たしかに多いですね。でも実際には女性ホルモンの分泌が止まっていなくても、ホルモン補充療法を受けることはできます。
受診に対するハードルを上げないためにも、まずは「特に症状はないけれど年齢的に更年期ですか?」といった気軽な会話ができるような、かかりつけの婦人科をつくることから始めていただくといいのかなと思います。
理想は、20代くらいからずっと自分の体の状態を見てくれている医師がいること。20代からは定期的に子宮頸がん検査のほか、子宮筋腫や卵巣嚢腫の有無を調べる超音波検査を受けていただきたいですし、現時点で妊娠の希望がない方にはピルやホルモン治療で生理痛を軽減したり、排卵を止めておくことで卵巣をきれいに保ち卵巣がんや子宮内膜症の予防につなげたりということも可能になります。

——予防の観点で婦人科を受診する考えはあまり浸透していませんね。

定期的に通える相談しやすい婦人科があると、年代に合わせたケアを早めにおこなえます。例えば、子宮頸がん予防のHPVワクチンはコンジローマという性感染症の予防にもなりますし、低用量ピルやホルモン治療は卵巣がんや子宮体がんの予防になります。
ホルモン補充療法は女性ホルモンの働きを促すので、骨を強くしたり、血管を強くしたり、動脈硬化の予防につながったりします。水分保持にも働くので肌をきれいに保つことにも。
QOLを高めて、いつまでも健康で楽しくすごせるよう、婦人科を活用してほしいです。

更年期は第2の人生に向けた準備期間

——症状が人それぞれでわからないことが多いだけに、更年期や閉経についてネガティブなイメージを持ってしまいますが、かかりつけの医師に相談できれば不安も減りますね。

閉経した時点で突然いろいろな機能が働かなくなるのではなく、徐々に変化していくもの。だから、この更年期の期間は心身がゆらいで一番症状が出やすくなるんです。でも、それを超えると症状がなくなり安定していきます。
女性は10代から生理が始まって、生理のたびに痛みに襲われ、PMS、更年期など自分ではコントロールできない不調と30年以上つき合い続けるわけですよね。閉経によってホルモンに振り回されない時期がやってきて、そうしたつらさから解放されると思えば、更年期や閉経は決してネガティブなものではありません。
第2の人生の始まりに向けて、女性ホルモンの低下により起こりうる不調や体の変化にきちんと対処していく、そんな気持ちで婦人科を訪ねてもらいたいです。

——「KNOW YOUR ORIGIN」のユーザーの皆さんは、日常的なセルフケアを取り入れている方が多いです。更年期のゆらぎの時期におすすめのケアはありますか。

子宮や卵巣に特化して、というよりも、体を健康に保つために必要な基本的なこと、「睡眠」「運動」「食生活」がやはり一番大事だと思います。
デリケートゾーンに関しては、性交渉の回数が少なく、更年期で女性ホルモンが低下すると、膣が狭くなったり、粘膜が薄くなって痛みが出たりすることがあります。こうした不調を感じている方におすすめしているのは、週3回ほどでよいので、入浴後にジェルなどをつけて指で会陰や小陰唇を優しくマッサージすること。
女性ホルモンは水分保持に必要なので、分泌量の多い20代・30代の膣はふっくらしているのですが、年齢とともに乾燥して薄くなっていきます。時には小陰唇がくっついて排尿できなくなってしまう方も。粘膜を健やかに保つために保湿は欠かせないですね。 

——膣周りが潤うことにはそうしたメリットがあるんですね!更年期や閉経で起こる不調に正しく対処していくことの大切さがわかりました。

「更年期かも?」と少しでも感じたら婦人科を頼ってほしいですが、ハードルが高ければ内科や心療内科でも、医療機関であれば入口はどこでもよいので訪ねてほしいと思います。
あとは更年期をネガティブに捉えないこと。認めたくないという気持ちが湧くと受診に対する抵抗感が生まれてしまいます。
先ほどもお話ししたように、更年期や閉経は悪いことではありませんし、女性に現れる生理現象の一つにすぎません。社会全体がこうした意識を持って、女性が体や心の不安なく輝ける環境や仕組みをつくっていかなくてはならないと思います。

※データは2023年12月 花王フェムケアラボ調査より

 

Profile

 

高橋怜奈(Rena Takahashi)

産婦人科専門医、医学博士。山王ウィメンズ&キッズクリニック院長。産婦人科YouTuberとして、病気や性の疑問などについてYouTubeやInstagram、X、TikTokでの発信も積極的に行う。元プロボクサーでもある。

公式インスタグラム: https://www.instagram.com/renatkhsh/
公式X: https://twitter.com/swkcrena
公式YouTubeチャンネル:https://t.co/JjNnGWbt8z